奨学金繰り上げ返済について

奨学金繰り上げ返済で得するケースと損するケースについて

日本学生支援機構(JASSO)の奨学金の返済は「繰り上げ返済」が可能です。

 

奨学金を毎月一定額返済(月1万〜2万円)し、それとは別に金額設定をすれば、その分が来月口座から引き落とされ、奨学金の残高分から相殺されます。手数料はかかりませんから、こまめに繰り上げ返済することも可能です。

 

借金というのは繰り上げ返済すればするほど元本が減り、返済期間も短縮され、発生利息は抑えられますから、支払総額は少なく済みます。ですから、原則は繰り上げ返済した方がお得です。

 

ただし、場合によっては繰り上げ返済することで損してしまうケースもあります。それは奨学金以外にも民間のローンを借りようとしている時です。

 

奨学金は民間のローンと比べて超低利息です。ゆえに奨学金を繰り上げ完済してから民間のローンを借りるより、奨学金を毎月返済しながら貯金をし、そのお金を頭金にすれば高利子ローンの負担を軽くすることができます。

 

今回は奨学金を繰り上げ返済して得するケースと損するケースについて、また繰り上げ返済の方法に詳しく解説していきます。

 

奨学金を繰り上げ返済するメリット

そもそもの話ですが、繰り上げ返済して支払い総額が大幅に減るケースと、全く支払い総額が変わらないケースがあります。貸与型奨学金を借りる場合、以下の4通りとなります。第一種は無利息で第二種は利息付となります。

  1. 第一種(人的保証)・・・利息も保証料も発生しない
  2. 第一種(機関保証)・・・保証料が発生する
  3. 第二種(人的保証)・・・利息が発生する
  4. 第二種(機関保証)・・・利息も保証料も発生する

この4つの中で繰り上げ返済しても支払い総額が全く変わらないのは1番だけです。第一種で利息は発生しませんから、返済期間を短縮しようが長くなろうが支払い総額は同じです、また、人的保証は連帯保証人を付ける代わりに保証料が発生しないシステムです。保証料も発生しませんから、やはり、支払総額は同じとなります。

 

機関保証を選んだ場合は連帯保証人を付けずに奨学金を利用できる代わりに、毎月保証料を支払う必要があります。機関保証の保証料が約5%(住宅ローン等は約1%)なので、実は結構高いです。

 

貸与終了時に支払う保証料は決定し、保証料を合わせた返済額を返済していくのですが、この保証料は返済期間を短縮すれば完済時に戻ってきます(指定した口座に振り込まれる)。

 

※機関保証の保証料返戻金額は、延滞の有無、繰上返還を行う時期、貸与額、貸与年数、返還年数等によって異なります。

 

自分が人的保証か機関保証かわからない場合はJASSOの返還相談センターで聞けば教えてもらえます。

奨学金返還相談センター

電話:0570‐666‐301(ナビダイヤル)
月曜〜金曜:8時30分〜20時00分(土日祝日・年末年始を除く)


私のケースで説明すると第二種(年1%、固定)の機関保証で月額8万円を45ヵ月分借りていたのですが(貸与額は364万円、保証料は20万円)、それを20年返済のところを5年で繰り上げ返済したところ保証料約15万円が戻ってきました。

 

保証料返戻金額はそれぞれ違うのですが、返済期間を大幅短縮すると、これだけ戻ってくるのです。このケースでは20年かけて返済した場合、トータルで利息が約20万円発生しますが、5年で返済したため、発生利息も約5万円で済みました。

 

ようは20年かけて返済していると利息と保証料でトータル約40万円発生していたのが、5年で繰り上げ返済すると、利息と保証料がトータルで約10万円ですので、30万円分も浮きました。

 

繰り上げ返済すると利息分だけお得だと考える方がいますが、保証料も返済期間を短縮することで、完済時に大きく払い戻しされるので、その分も大きいです。機関保証の保証料については以下をご覧ください。

 

機関保証の保証料いくらかかる?保証料を安くする裏技

 

第二種(人的保証)については繰り上げ返済すると、利息分が節約となります。

 

第二種(機関保証)については利息分も保証料も発生するので、繰り上げ返済した場合、一番効果が高いと言えます。

 

これまでの話が繰り上げ返済の前提の話です。繰り上げ返済するメリットはやはり「返済期間を短縮することで利息分や保証料分の発生を抑えられるのでお得」ということになります。第一種で人的保証の方以外は繰り上げ返済して返済期間を短縮すればするほど、支払総額を減らすことができます。

 

あとは精神的な余裕が生まれます。奨学金は借金(ローン)です。利息もありますし保証料もありますし、もし滞納を続けた場合民間の債権回収会社に委託となり取り立てもされます。

 

ブラックリスト入りしたり給与差し押さえや一括繰上げ請求などの可能性もあるのです。ブラックリスト入りするとクレジットカードが持てなかったりローンが組めないので、将来与える影響は大きいです。そういったリスクがあります。奨学金は「入口は奨学金、出口は金融商品」と呼ばれており、ただの学生ローンです。

 

そういったものですから、はやく完済した方が精神的な負担は軽くなります。やはり借金があるというのは精神面でよろしくありません。精神的な負担になりますし、ストレスを感じる方もいると思います。そういった状況から早く抜け出すというのは、大事だと思います。

 

利息と保証料はいくらくらかかるのか

たとえば第一種の機関保証で月額4万5千円を4年間(48カ月)借りたケースでは以下のようになります。
貸与総額2,160,000 円
(うち保証料総額は72,720 円)

 

このケースでは繰り上げ返済すると保証料分が返済期間を短縮した分だけ完済時に戻ってくることになります。

 

たとえば第二種(年0.5%、固定)の機関保証で月額6万を4年間(48カ月)借りたケースでは以下のようになります。

 

貸与総額2,880,000 円
(うち保証料総額は128,736円)

 

これを16年(192回払い)で返済した場合の返還総額3,004,293 円
トータルで124,293円の利息が発生する)

 

このケースでは返済期間通り(16年)に返済した場合は保証料がトータルで128,736円、利息がトータルで124,293円です。これを繰り上げ返済したら返済期間を短縮した分だけ利息は抑えられますし、保証料は完済時に戻ってきます。

 

たとえば在学4年間と卒業してから返済がはじまるまでの7カ月間は利息は発生しませんから、その間にコツコツと貯金し、返済がスタートしたと同時にすべて繰り上げ一括返済を行えば、この利息分と保証料合計約25万円を浮かせることができます。利息はそもそも発生せず、保険料分は戻ってきます。

 

※参考:奨学金貸与・返還シミュレーション - JASSO

 

奨学金を繰り上げ返済するデメリット

  • 無理な繰り上げ返済をすると急な出費に対応できない可能性がある
  • 複数のローンを借りていたり、これから民間のローンを借りようとしている場合

デメリットの1つ目は無理な繰り上げ返済をして貯金を空にすると急な出費に対応できないことです。大きなケガや病気にかかったり冠婚葬祭だったり家電が一斉に壊れたりなど、急な出費が必要な時、貯金がないと対応できません。ですから繰り上げ返済は「無理のない範囲で」行う必要があります。

 

たとえば病気やケガなど、一般的な緊急入院の平均出費額は20万円前後となっています。自動車事故で相当の損傷が発生して板金や塗装が必要な場合は50万円程度はかかります。繰り上げ返済する場合は最低でも50万円は貯金として残した状態で行いたいですね。

 

デメリットの2つ目は奨学金以外にもローンを借りていたり、これから民間のローンを借りようと思っているケースです。

 

奨学金以外にもたとえば自動車ローンだったりまたは銀行のカードローンなど借金をしているケースでは、繰り上げ返済は「利息が高い借金から順番に繰り上げ返済する」のがセオリーです。

 

たとえば奨学金は第二種で年0.5%、自動車ローンは銀行系の年4.0%、銀行カードローンは年8.0%の3つの借金をしているケースでは、毎月の返済をしてそれでも余力がある場合は一番年利の高い銀行カードローンから繰り上げ返済します。それを完済したり次に自動車ローンです。それも完済したら最後に奨学金です。

 

このように年利(金利)が高い借金から優先的に繰り上げ返済すると返済総額を抑えることができます。

 

もし今奨学金はあるけど、他に民間のローンを借りたい場合ですが、そのケースでは奨学金は繰り上げ返済しない方がよい可能性があります。たとえば自動車ローンですと一番安い銀行系でも年2.0〜4.0%となります(信販系やディーラー系は年5.0%を超えることもあります)。住宅ローンでも年1.65%〜4.5%となります。

 

奨学金の場合は第一種は年0%(無利息)、第二種でも上限が年3.0%ですから、それより高くなることはありません。当然卒業した月の動向によって異なるのですが、大体年0.5%〜1.0%となります。

 

ここ14年で最も高くなった金利でも年1.52%です。第二種の過去14年間の卒業時の利率(固定)は以下の通りです。

2022年3月卒業 0.369%

2021年3月卒業 0.268%
2020年3月卒業 0.070%
2019年3月卒業 0.14%
2018年3月卒業 0.27%
2017年3月卒業 0.33%
2016年3月卒業 0.16%
2015年3月卒業 0.63%
2014年3月卒業 0.82%
2013年3月卒業 1.08%
2012年3月卒業 1.17%
2011年3月卒業 1.41%
2010年3月卒業 1.52%
2009年3月卒業 1.50%
引用:第二種奨学金貸与利率(https://www.jasso.go.jp/shogakukin/about/taiyo/taiyo_2shu/riritsu/index.html)


このように奨学金は民間のローンと比べて、低金利なのです。奨学金と住宅ローンと自動車ローンの利息を比較して奨学金がいかに低利息なのかということです。
借金をする場合必ず利息が発生しますが、奨学金は超低金利で借入ができている状態ですので、それを活かすという方法です。奨学金の返済はそのまま毎月続けて、それとは別に民間のローンを借りたい場合はそれを借りるのです。

 

奨学金を繰り上げ完済してから改めて民間のローンを借りるよりはそちらの方がお得となります。

 

実家暮らしと一人暮らしでは状況が全く異なる

やはり実家暮らしか1人暮らしかで奨学金の返還スピードは異なります。

 

実家暮らしはかなり有利です。家賃も光熱費もかかりませんし、食費も昼食くらいしかかかりません。家電家具を買い揃える必要もないですし家のインターネット代もかかりません。

 

貯金をしようと思えばいくらでも貯金できる環境にあります。ボーナスは丸々使えるはずです。会社勤めの場合はいつ転勤になるかわかりませんから、もし実家暮らしの方は、どんどん貯金して、どんどん繰り上げ返済していくことが好ましいです。たとえば奨学金が400万円あるケースでも、実家暮らしなら返済スタートしてから5年以内の完済も十分可能だと思います。

 

一人暮らしの場合はそう簡単にはいきません。一人暮らしをはじめるのに敷金礼金や家電家具を揃えたり火災保険に入ったりで50万円程度かかります。あとは毎月家賃や光熱費や食費がかかります。家電家具が壊れたら買い替えないといけません。

 

手取りの中で生活し、その中で毎月一定額奨学金の返済をしますが、そこからさらに貯金をして繰り上げ返済していくというのはとても大変です。

 

返済期間の猶予を申請して1年間利息を停止させてその間に繰り上げ返済分を貯蓄する

去年の年収が給与所得者(サラリーマンなど)なら300万円以下、給与所得者以外なら200万円以下でしたら返済期間の猶予を申請することができます。

 

返済期間の猶予を出すと、承認後の1年間は返済が完全にストップし、利息もストップします。ようはこの期間は利息は発生しなくなり、返済も止まるということです。

 

この利息が止まっている時にコツコツと貯金をして、返済期間の猶予が終了した時に一括で繰り上げ返済するという方法があります。そうすると効率よく奨学金を返済することができます。これは特に返済を始めたての元本(残高分)が大きい時に有効です。借金というのは元本が大きければ大きいほど発生利息は増えますから、元本(残高)が大きい時ほど繰り上げ返済が有効になります。

 

ただしこの方法は返済期間の猶予の条件に合う人でないとできません。

繰り上げ返済の方法について

繰り上げ返済の方法ですが主に2つあります。スカラネットパーソナルに登録して、そちらの管理画面から繰り上げ返済する方法と奨学金返還相談センターに電話を入れる方法です。

 

スカラネットパーソナルは24時間ログインできますからいつでも繰り上げ返済の予約をすることができます。

 

返還相談センターは平日の8時30分〜20時00分までの受付ですから予約時間に限りがあります。電話番号は以下の通りです。

奨学金返還相談センター(JASSO)

電話:0570‐666‐301(ナビダイヤル)
月曜〜金曜:8時30分〜20時00分(土日祝日・年末年始を除く)


電話での予約はとても簡単で返還相談センターに電話を入れて、相談員に繰り上げ返済する旨を伝えます。すると金額を聞かれるので、たとえば15万円の場合はそれを伝えると、来月に毎月の返済額とは別に口座から15万円が引き落とされます。

 

引き落とされた分はそのまま残高から相殺されます。

 

スカラネットパーソナルでの繰り上げ返済の方法ですが、まずは管理画面にログインして、それから以下の流れです。
「各種届出・繰上」→「@ ワンタイムパスワードの取得画面へ (まずはワンタイムパスワードを取得する)」→「各種届・願出・繰上返還申込の処理選択画面へ (ワンタイムパスワードを入力して手続きしていく)」

 

奨学金を繰り上げ返済する方法について

 

奨学金を繰り上げ返済する方法について

 

繰り上げ返済の注意事項は以下の通りです。

・ 返還者のみならず在学中の奨学生も繰上返還をすることができます。

【繰上返還申込日と振替(引落)日の目安めやす】
・ 繰上返還の振替日は通常 毎月27日(振替日が金融機関の休業日の場合は翌営業日)になります。
・ 毎月1日〜13日頃までの申込は 当月の27日、
(注) 13日頃までとは毎月口座振替日から数えて9営業日前を指します。14日頃〜31日(月末)までは 翌月の27日の引落となります。
・ 連続して繰上返還を申込む場合、その奨学生番号の次の繰上返還は、振替日翌月の5日頃〜13日頃まで申込ができます。

引用:スカラネットPS 各種届出・繰上

JASSO奨学金繰り上げ返済まとめ

貸与型奨学金は第一種の人的保証以外の方は繰り上げ返済した方が利息分(または保証料)が抑えられるので、原則、繰り上げ返済した方が支払い総額を減らすことができます。第一種で人的保証の方だけは、早く完済しようが返済期間通り返済しようが支払い総額は変わりませんので、急いで返済する必要はありません。

 

返還期間の猶予の条件に合う方は申請するとその1年間は返済ストップし利息も発生しないのでその期間に貯金して返済スタートしたら繰り上げ返済するとより利息分を浮かせられます。

 

繰り上げ返済の注意点は無理な繰り上げ返済をすると急な出費(怪我や病気など)に対応できないので、貯金など余裕を持たせながら、無理のない範囲で繰り上げ返済する必要があります。

 

奨学金以外にも民間ローンの借金をしていたり、今後民間ローン(自動車ローンや住宅ローンや銀行カードローンなど)を借りる予定のある方は、奨学金の繰り上げ返済は控えた方がよいです。奨学金は民間のローンと比較して極めて低利息ですので、こういったケースでは優先的に奨学金を繰り上げ返済していくメリットはありません。奨学金の返済はそのまま続けながら、貯金で貯まったお金を頭金にして、その分の金額を抑えて民間ローンを借りるというやり方になります。ようは超低利息の奨学金を活かすやり方になります。