奨学金を滞納するとどうなる?

奨学金を滞納するとどうなる?延滞金

日本学生支援機構の奨学金を滞納した場合の取り立ての流れについて解説します。また滞納した場合の大きなリスクについても解説し、もし滞納してしてしまった場合の救済処置(返還期間の猶予)についても説明しています。

 

返還期間の猶予を申請すれば、その1年間は返済は完全にストップし、有利子の場合でも利息はその期間一切発生せず、延滞金も発生せず、ブラックリストに登録されることもありません。返還期間の猶予は自ら申請する必要があります。その申請方法についても解説しています。

 

奨学金を滞納するとどうなるの?

日本学生支援機構の奨学金を滞納した場合の流れは以下の通りです。行政法人ということで甘くみていると痛い目食らいます。実際の回収はサービサー(債権回収会社)が行います。
民間の取り立てルールに基づいて行うため、一括請求も給与差し押さえも預金差し押さえもあり得る話です。

 

奨学金を滞納した時の取り立ての流れについて

・1ヵ月(30日目)…電話がかかってきたり手紙が届いたりする
・2ヵ月(60日目)…延滞金が発生する(延滞した日数分だけ元本に対して年5%の延滞金が発生)
・3ヵ月(90日目)…ブラックリストに載る
・4ヵ月(120日目)…サービサー(債権回収会社)に取り立ての業務委託される
・それ以降…連帯保証人に取り立てが及んだり、給与差し押さえ(預金差し押さえ)される可能性あり
・9ヵ月…訴訟を起こされ、繰り上げ一括請求される

滞納1ヵ月目ではすぐに日本学生支援機構から1ヵ月分の返済分が引き落としされていませんと電話がかかってきます。手紙でも〇月分の返済がまだですという内容が家に届きます。

 

滞納2ヵ月目になると延滞金が発生します。延滞金の計算は第二種の場合は以下の通りです。

延滞している割賦金(利息を除く)の額に対して、返還期日の翌日から返還した日までの日数に応じて、平成26年3月31日までは年(365日当たり)10%、平成26年4月1日以降は年(365日当たり)5%の割合を乗じて計算した額の合計額が賦課されます。

引用:日本学生支援機構 延滞金(https://www.jasso.go.jp/shogakukin/entai/entaikin.html)

平成26年4月1日以降は年5%ですから、たとえば第二種奨学金を400万円借りている場合、1日で延滞金は547円、1ヵ月(30日)で16438円、1年(365日)の延滞で20万円の延滞金が発生します。

 

※延滞金の計算方法
元本(万円)×延滞金の年5%(0.05)÷365日=1日分の延滞金
元本(万円)×延滞金の年5%(0.05)÷365日×30日=1ヵ月分の延滞金

 

この延滞金は非常に重たいことがわかります。さらに延滞金が生じている場合、月々の支払いは「延滞金→利息→元本」という順番に充当されていきます。延滞金が膨大になるといつまでたっても元本が減らないということになるのです。

 

いわば延滞金地獄です。「延滞金は延滞した分だけ1日単位で増えていくので、奨学金は絶対に滞納せず、払えない時はすぐに返還期間の猶予を申請する」というのがとても大事になります。

 

延滞3ヵ月目で信用情報機関に延滞情報が載ります。これがいわゆるブラックリストです。これは金融機関が新規客の信用情報を照合する時にのみ使われるデータです。ようはお金を借りたいという時やクレジットカードを新規で作成したいという時やローンを組みたいという時にブラックリストに載っていると、それができないのです。

 

ブラックリストに一度載ると、奨学金の完済が終わってから5年が経過するまではデータが消えません。たとえば滞納を続けてブラックリストに載り、そこから8年かけて奨学金を完済したとします。そこから数えて5年が経過してはじめてブラックリストは消えるのです。

 

ようはこのケースでは13年間はブラックリストに載り続けるので、この期間はクレジットカードは持てませんし、自動車ローンや住宅ローンも組めません。クレジットカードが持てないと海外旅行の時に困ります。自動車ローンや住宅ローンが組めないと結婚生活時に大きな障害となります。
とても厳しいシステムとなっているのです。

氏名、住所、生年月日、電話番号、勤務先、契約内容等が情報として登録されてしまう。一度ブラックリストに載ってしまうと、新たにクレジットカードをつくることや各種ローンを組むことが難しくなったりする。

さらに、この情報は返還が完了して5年経過した時点で削除されるため、仮に返済できたとしても、その後の生活に長い間影響をおよぼすことになる。

引用:『ブラック奨学金』 (文春新書)P78〜P79

 

延滞4ヵ月目で取り立て業務をサービサー(債権回収会社)に委託されます。これまでは日本学生支援機構による電話や手紙だけだったのが、これからは民間の会社が取り立てをすることになります。
民間のルールに基づいて督促となります。督促の電話や手紙は頻度を増すことになります。昼間でしたら自宅訪問もあり得ます。夜間の自宅訪問は違法ですが(貸金業法の第21条)昼間の自宅訪問は問題ありません。
給与差し押さえや預金差し押さえの可能性もあります(これは回収の最終手段でそう簡単にされるものではありません)。債権者の権利として各期間ごとに支払われる給与の1/4に相当する部分のみについて差押えが出来ることになっています。給与差し押さえをされると職場に奨学金滞納の事実が知られてしまいます。この点がとてもリスクが大きいです。

 

給与差し押さえをするには債務者の職場を特定する必要があります。申込時に職場を伝えている(または職場変更した時に日本学生支援機構にそれを伝えた)場合は相手に職場を特定されていますから給与差し押さえの可能性はあります。もし職場が変わっており、変更したことを伝えていない場合は、相手はそれを知りませんから、給与差し押さえされることはありません。

 

預金についても申し込み時に伝えた預金口座内にたくさんのお金を預けている場合、差し押さえされて残高分が持っていかれる可能性があります。給与差し押さえや預金差し押さえが民間の会社ができる債権回収の最終手段となります。

 

連帯保証人との問題もあります。奨学金の申込をした時に人的保証(もし本人が払えなくなった時は連帯保証人が肩代わりをする)か機関保証(もし本人が払えない時は保証会社が肩代わりをする)どちらか選択したはずです。

 

機関保証を選択した人は特に問題は起きません。

 

人的保証で連帯保証人を親に設定した人は、滞納を続けていると、取り立てが親に及びます。親に延滞金が上乗せされた奨学金の返済を求められるのです。

 

子どもと連絡が取れず、息子が学生時代に借りた奨学金の支払いを求める通知が急に親の元に届くということがあるのです。すでに何年も延滞している場合はその延滞金が膨れ上がり、その分の請求も余儀なくされます。

 

延滞9ヵ月目で民事訴訟を起こされ、繰り上げ一括請求されます。

 

民事訴訟の流れですが、まずは簡易裁判所から自宅に「特別送達」と呼ばれる特殊な書留郵便が送られてき、それは必ず本人が受け取ることになります。この中には「督促異議申立書」が入っており、そこに「分割払いについて債権者との話し合いを希望する(月〇円くらい)」という欄があります。

 

この郵便物が届いたにも関わらず無視していると、欠席裁判となり、一括繰り上げ請求されてしまいます。ですから、この書類で和解書としての役割を果たす、この欄で和解を申し出ます。ここで記入する金額はあくまでこちら側の主張で、これを日本学生支援機構が認めてくれれば和解成立となります。

 

もしこの和解が成立しない場合は裁判所は一括返済の判断を下すことになります。ここでしっかりと話し合い、双方が合意するところで和解成立させる必要があります。殆どのケースで、督促異議申立書で和解を申し出れば、裁判になることはなく(一括請求されることはなく)、双方の妥協点で分割返済が認められることになります。

 

一括請求を求めたところで債務者が一括で払えないのはサービサーもわかっていますから、あくまで滞納を続ける債務者に返済をさせるための回収手段として用いられるのです。

 

奨学金が払えない場合はどうすればよいか?

これまで滞納するとどういったことになるのか説明してきました。やはり奨学金を滞納するリスクは非常に大きいと言えます。多くのケースで連帯保証人と保証人が付いていますから、たとえば母親が連帯保証人、叔母が保証人に設定した場合。

 

子供が滞納を続けて払わないと、それは母親に督促が向かうことになります。しかも高い延滞金が上乗せされてです。もし母親が払えない場合は保証人である叔母が督促されます。このように3世代にわたって連鎖していくのです。

 

ですから、奨学金が払えない時は必ず返還期間の猶予を申請するようにします。自ら申請しないといけません。返還期間の猶予についてですが最大で10年間まで可能です。この申請は少しでも入力間違いがあると再提出が求められます。用意する書類も多いです。

 

ですから、郵送するまでに必ず奨学金返還相談センターに電話をかけ、疑問点があれば確認しておく必要があります。

 

返還期間の猶予の適用条件は給与所得者は年収300万円以下、給与所得者以外(個人事業主)は年収が200万円以下で利用ができます。基準としては「去年の年収をどのくらい貰ったか」という点となります。

  • 給与所得者年間収入金額(税込)…300万円以下
  • 給与所得以外の所得を含む場合年間所得金額(必要経費等控除後)…200万円以下

もし去年の年収300万円以上の場合でも以下のケースでは適用可能です。

  • 傷病(無職)…ケガや病気で働けない場合は添付書類に診断書を提出
  • 生活保護受給中…生活保護受給中である証明書を添付
  • 失業中…失業した月の翌月から半年以内に申請する(失業を証明する書類を添付)
  • 減収…去年の年収は300万円以上であるが、今年に入って収入が減って返済できる状態にない(直近3ヵ月の収入がわかるものと所得証明書を添付)

年収が300万円以下の方は日本学生支援機構から書類をダウンロードし、記入し、それに去年の所得証明書を役所から取得して添付し、郵送すれば1〜2ヵ月後に猶予となります。提出するものは以下の3つです。
申請が通れば、その後1年間は返還猶予となります。

  1. 返還期限猶予願
  2. チェックシート
  3. 返済困難な状況を示す証明書

 

ちなみに既に滞納しているケースでも、過去遡って返還期間の猶予を出すことができます。滞納している時点で返還期間の猶予を出すと、過去の分は猶予となるので、請求はこなくなりますし延滞金も発生しません(あくまで返済期間が後回しになるだけで返済総額が減るわけではありません。

 

返還期間の猶予の申請方法については以下にすべて載っていて詳しいので以下を参考にしてみてください。

 

奨学金が返せない時の返還期間猶予の申請方法について

 

あとはもし今の収入では到底奨学金を完済できそうにない、という場合は、自己破産も視野にいれる必要があります。自己破産をすれば奨学金(そのほかにも借金している場合はそれもすべて)は0に戻ります。返済の必要はなくなります。

 

奨学金の自己破産で問題になるのが人的保証か機関保証かです。機関保証に設定している方は自己破産すれば保証会社がすべて肩代わりするので問題はありません。

 

人的保証の場合は本人が自己破産すると払えてない分の奨学金は連帯保証人に移ります。多くのケースで連帯保証人は家族に設定しているはずですから、このケースでは奨学金が家族内に移動しただけで意味はありません。

 

日本学生支援機構の債権回収について思う事

奨学金は「入口は奨学金、出口は金融」と言われています。奨学金の申し込みや説明会などは日本学生支援機構は一切行わず、高校や大学など教育の現場で行われます。そこですべて申し込みをすることになります。ようはそういった説明はすべて高校や大学の現場に押し付けているという形です。

 

一方少しでも滞納をすると、民間の会社に取り立てを委託され、高い延滞金が課せられ、ブラックリスト入りし、給与差し押さえや一括請求もあり得るのです。民間の会社はより高い回収率を求めて活動します。そこには福祉という要素は一切なく、たとえば銀行カードローンや消費者金融と同じ質の取り立てがあるのです。

 

しかも人的保証を選ぶと連帯保証人と保証人が人質となっている状態です。

2015年度には、(日本学生支援機構は)約387億円の利益収入と約39億円の延滞金収入が計上されている。こららは第二種奨学金を返済している人の利息と第一種・第二種問わず延滞してしまった場合に掛かる約年5%の延滞金によるものだ。

引用:『ブラック奨学金』 (文春新書)P139

高校が金融商品の業務窓口となっているのです。ようは国の組織である権力を利用し、窓口業務は高校の現場に押しつけ、取り立て業務は民間の債権回収会社に依頼し、多くの利益を出すことで優良投資先であることをアピールし、多くの利益を生み出しているのです。

 

本来、未来を担う子供達に向けて、回収した多くの税金の一部を教育にあてていくべきだと思います。それが現状は、税金は高等教育に使われず、その教育費の負担は奨学金という形で子供達本人に借金で背負わせています。

 

それならまだしも、貧困ビジネス化ともいえる、利息や延滞金で多くの利益を日本学生支援機構は生み出しているのです。機構に融資をする政府や金融機関、債権回収をするサービサーなどが若者を食い物にしていると言わざるを得ない、しかもそれを国単位でやっているという点が、とても恐ろしいことだと思います。組織の腐敗と言わざるを得ません。